川舟下りを体験してきた!
熊野川が参詣道??
『熊野古道』と言えば石畳や森林をイメージしますが…この聖なる熊野川もれっきとした世界遺産の一部。
平安の上皇、法皇は熊野本宮大社へお参りしたあと舟で新宮の熊野速玉大社へ向かったのです。そう、ここは歩かない熊野古道!!
そこでは現在、語り部ガイドが乗船して歴史やジオの話をしてくれる川舟下りの体験ができます。
ちなみに中辺路の踏破証明書のスタンプポイントがその川舟センター内にあります。スタンプだけ押して帰ることもできますが、中辺路踏破と言うならばやっぱり乗船したい!!
…というわけで、秋も深まる11月に友人と3名で乗船してきました!
1人は私とイチから中辺路をはじめた熊野古道が大好きな友人、もう1人は私が熊野古道(稲葉根~滝尻)へ付き合わせて「こんなにキツイなんて騙された」とマジギレさせたことのある友人です(楽しかったな~フフ)。
川舟は歩きたくない人、そして歩けない人も楽しめるのがいいところ。川原を歩くのでバリアフリーではないですが、高齢の方も乗船できます。
まずは予約する
完全予約制です。空席状況(運行状況)が公式ページで確認できるので空席のある日時を選びましょう。私は午後便を予約しました。
1艇の定員は10名まで。料金は大人1名3,900円で所要約1.5時間。
ちなみに下船は16km先の新宮市の権現河原で、そこから出発の川舟センターへは車で送ってくれます。
※12月~2月の冬季は、6名様以上の団体申込のみ。それ以外の季節でも最少催行は3名からです。詳しいことは公式にあるので割愛します。
川舟センターはどこにある?? 熊野川と国道168号線
熊野本宮大社からだと車で約30分ほど168号線を南下、道の駅・瀞峡(どろきょう)街道熊野川に川舟センターがあります。新宮からは逆に168号線を北上し約30分。
この168号線というのは熊野川沿いに延びる国道です。30分前には受付が必要なので、余裕を持って行きましょう。
今でこそこの国道が主要道ですが、古の時代は熊野川こそが交通の大動脈でした。ここポイント。
道の駅には、広い駐車場・きれいな公衆トイレ・自動販売機・軽食の食べられる小さな売店があります。この日はランチメニューがすべて売り切れでした。
商品を購入して席を借りれるか聞くと、『かあちゃんの店』の名に恥じない新宮のかあちゃん達があたたかいお茶を出してくださいます。売り切れは残念ですが、冷凍食品や加工品、作り置きじゃない証です。また改めて来ようと思いました。
めはり寿司と餅は安定の美味さ。「まちがいないな」「うまいうまい」と平らげました。そして、どこにでもあるようなパウンドケーキ。ぜんぜん期待しないで口に入れるわけですが、会話の途中でぽつりと加わる一言「うまいな」。
「ちょっと好きかも」「帰りに買おうかな」。味は本当にめっちゃ素朴なんですが、いくらでも食べられそう。
ちなみに本宮大社は田辺市ですが、ここは新宮市。同じ和歌山ですが少しずつ文化が違う。見たことのない生産者さんの物産品があったり田辺出身の私もちょっと旅人気分。
乗船手続き&スタンプ押印!
さて、お腹も満たして川舟センターで受付けです。支払いとトイレを済ませたら、ライフジャケット装着!そして古道らしく笠もかぶりますよ。わくわくしてきたー!
「あ、そうやスタンプ!」ここで熊野古道ウォーカーが忘れてはならないのが熊野古道中辺路踏破 押印帳です。
いつもの古道歩きと違ってすっかり観光気分です。「川の参詣道、制覇~!」おお?!スタンプが青色だ。
手荷物は下船後にお迎えしてくれる車に乗せますよ。
いよいよ乗船です!
川原を歩くと、舟と船頭さんが待っています。私たちの他はドイツ人とスウェーデン人の4人でした。
近頃は欧米からのゲストが多いので、語り部さんは英語と日本語でガイド。彼らは下船後ここには戻らず、勝浦に行くそうです。
水しぶきを浴びてもいいように、ビニールシートを膝にかけます。と言っても濡れるようなことはありませんでした。天候や水量によって必要な場合もあるのかな。
ちなみに座る席は、途中で前後交代します。しかも定員10名なので後ろでも十分声が聞こえます。語り部を貸し切るにはなかなか贅沢な人数と言えます。
雄大な熊野川の舟旅へ
エンジンをかけて出船。景色をゆったり楽しめる風情があり見所で停めてくれます。
川風を受けて波にゆられ「ああ自然の中に入ったな」と感じるのは、山の熊野古道と同じ感覚でリラックスした気分。
神経のどこかがOFFになって、使っていないどこかがONになる、きっとこれが熊野古道のテーマである再生や甦りを感じる一つなのでしょう。
ところで今回、友人は少し船酔いの心配していたのですが酔うことはありませんでした。不安であれば酔い止めを。
次々とあらわれる自然の景観美、滝と岸壁
しばらく降水量が少ない天気だったので滝は勢いが控えめのようです。でも何度か車で通ったことのある熊野川沿いに、こんなにたくさん滝があったんやな~と感激しました。
語り部さんが滝や岩の名前や、物語を解説してくれます。太古の大噴火やジオのことを勉強していれば、さらに面白いでしょう。
▲滑り落ちないように気を付けよう
途中で下船したのは『鬼の背骨』と異名をもつ奇岩『骨嶋』が横たわる川原。「Which do you think, Devills backbone? or Rocks?」と語り部さんが質問します。悪い鬼がこの辺りにいて退治されたんだそうです。
「まじかよ鬼デカすぎ~」とよじ登ります。スベスベで、白くて、日光を吸収してちょっと温かい。悪い鬼も川で浄化されたのかな。
船頭さんと語り部さんのデモンストレーション!
船頭さんがエンジンを止めました。そして伝統的な手漕ぎでギーコギーコと全身を使って櫂を動かします。ゆっくりと風流ですが実際に川を渡りきるのは大変そう。
でもこんな風に船頭がたくさんいたんだな、舟や櫂を作る人、わらじや笠を編む人、参詣者を迎える人々の姿が見えたような気がしました。
そして前方で語り部さんがおもむろに取り出したのは篠笛。美しい音色が清流に響きます。
キュートな印象の語り部さんは最初から最後までニコニコとしていて、この仕事が本当に好きなんだと伝わりました。
熊野古道でこんな風に篠笛を聞くことなんて今までなかったし、たくさんいる熊野古道の語り部ガイドでも特殊な技能だと思います。
舟を漕ぐ音、川の音、笛の音でいっそう神秘的な中世へ。
人々の想いと歴史を想像しよう
右を見上げれば168号線を車やトラックが走ります。2011年の紀伊半島災害のときにはその上まで水がきたんだそうです。電線に車がひっかかったと聞いたことがあります。おそろしい力です。
魚が跳ね、トンビが飛び、川鵜が両羽を広げてわさわさと振ってくれます。手を振ると返してくれる釣り人もいました。高い空、ポーズを決めるシラサギ、今日のおだやかな秋の日の光景はいつかの貴族も見たのかもしれません。
文化が流れ、材木を運び、穢れを祓い、時に氾濫した熊野川。
紀伊路、中辺路と歩いてきた人々はどんな気持ちでこの舟に乗ったのかな。ほっとしたのか?それとも寒くて凍えたのか?
神々と熊野川
この「昼嶋」では熊野権現がアマテラスとランチをしたとか囲碁をしたと言われます。どっちが勝ったのか気になるところ。
島のてっぺんが格子状になっていて碁盤のようだそうで、これは柱状節理の岩を上から見ると、そんなふうに見えるんだそうです。
そのあとは熊野速玉大社の例大祭で有名な「御船島」が登場。予習なしで乗船したので「え!ここが」と写真でしか見たことがない神事の舞台にテンションが上がりました。
9隻の早舟が速さを競ってこの島を3周します。この様子がとても絵になるので、毎年新聞に掲載される勇壮で美しい写真がとても印象に残っていたのです。この神聖な島も熊野速玉大社の境内だと聞いて「へー!」と驚きました。
速玉大社は玉のように速い熊野川の流れから、その名がついたそうです。
本宮の旧社地は川の中州、那智にも瀧があるし…熊野は水と関わりが深いみたい。
現在・過去・未来を司る熊野三山、その中で速玉大社は「現世」です。
この川のように「今」が流れて、人生は一瞬の連続だということ?御船島を2周しながら、私の頭の中はぐるぐると想像がめぐります。
川の終わり、なれど道は続く
いよいよ下流、橋の向こうは太平洋。この熊野灘もまた歴史の大海です。右には新宮の街、速玉、新宮城、阿須賀神社…自分の歩いた中辺路です。そして左は三重県、これから!と思っている伊勢路です。自分の過去と未来が見えたようで、ちょっとうれしくなりました。
権現河原とよばれる場所で下船します。ここにたくさんあったとされる川原家が再現された『川原家横丁』という場所が速玉大社のすぐ近くにあり、お手洗いのためそちらへ立ち寄ってから川舟センターへ戻ります。
午前便なら新宮のまちなかでランチして、速玉大社をお詣りして、それから路線バスで戻るのもありだなぁーと思いましたよ。
私の思うことは大抵こじつけですが、熊野古道の様々なパーツを拾い集めて線にするのが大好きです。何かがつながった時のたのしさは、脳科学でいうアハ体験。活性化は甦りともいえるでしょう。
熊野古道を歩く人ならきっと、この夢やロマンがわかるはず。穏やかな川舟はそんな想像をかきたてるものがありました。