熊野古道全体のイメージがつかめない、紀伊半島がよくわからない…。関西の方ならまだしも、居住地以外のエリアって想像するのが難しいものです。そんな全体像を知るには、実は熊野古道の正式名称を分解して考えるとわかりやすいんですよ。
正式名称??そうです。
「紀伊山地の・霊場と・参詣道」←これです。
そもそも紀伊山地って具体的にどこなのか?
「参詣道」というのはもちろん熊野古道のことですね、これは簡単。では「霊場」とは?それは本宮・速玉・那智からなる熊野三山や高野山、吉野のことです。この霊場への道が「参詣道」ってわけですね。
さぁそれでは「紀伊山地」ってどこでしょうか?単純にエリアを差してるんでしょうか、それとも紀伊半島全体のことでしょうか?上のイラストではどこが険しい山なのかはわかりませんね。
熊野3600峰とも呼ばれるくらい紀伊半島はすんごい山だらけなんですが、こんなの登山やらない人にはわかりません。ですがここが肝心なのです。なぜなら地形こそが熊野古道という祈りの道を作ったフィールドだからです。
そんな「紀伊山地」をイメージしていただこうと、下記の略図を作ってみました。じゃじゃーん!
ワーオ!手作り感が満載です!(かなり汚いけど不慣れなiPadで頑張って作ったんで、まぁ見てやってください)
ざっくり言うと、紀伊半島の中央部は隆起していて、山深い「秘境ゾーン」があるということ。とても簡単ですが紀伊山地のイメージはこんな感じです。
紀伊山地の地形を読み解く
ピンクの丸は街です。京都盆地、大阪平野、奈良盆地が中心都市。そしてこの三都から離れるほど田舎です。和歌山は南部へ行くほど人口が減ります。古の時代から今も大体こんな感じですね。田辺~新宮までは大きな街もなく、ここに大辺路のむずかしさやおもしろさがある、とも読み解けます。
この中で険しいのは、北部から延びる道の小辺路と大峯奥駈道です。そこは護摩壇山系・大峰山系・大台山系の1000~2000m級の山の皆様が脈々と連なる場所。山岳信仰のはじまりの地です。
伊勢路の西側にある大台ケ原の年間降雨量は、日本一の屋久島と並ぶともそれ以上とも言われ、紀伊半島の水源です。この水源は吉野川、紀ノ川、熊野川、宮川などになります。川は生命を育み、物流の道となり文明をもたらしました。世界史なんかもそうですね。
非常に強い台風第24号チャーミー,今日30日20時頃に和歌山県田辺市付近に上陸しました.危険な場所には絶対に近づかないで下さい.暴風,高潮,大雨,高波に厳重に警戒を!! pic.twitter.com/q71PLl4r2g
— 荒木健太郎 (@arakencloud) September 30, 2018
▲こちらは荒木健太郎さん(雲研究者.気象庁気象研究所研究官.学術博士)の公式Twitterより引用をいただきました。2018年9月の台風です。台風が近畿地方に近づくずっと前から、奈良と三重の県境にある大台に猛烈な豪雨が襲い続けていることがわかります。
紀伊半島の歴史文化は原始的な山岳や密林と、そこに雲がぶつかり降る豊富な雨、生まれる川…つまり地形が重要なのです。
熊野古道を歩く上でそのイメージがあると歴史の捉え方や、景色さえも違って見えますよ。山全体を想像してくださいね。
さて前置きが長くなりましたがいよいよ本題です。そんな紀伊半島の各ルートはそれぞれどうなのか?全体ってどんな感じなのか?ありそうでなかったなと思って比較してみました。次の表をご覧くださいませ。
熊野古道徹底比較
5つの評価基準で全ルートを比較した
評価基準は以下の通りです。
- 初心者向け…歴史のわかりやすさ、情報の多さ、安全性、幅広い年代で歩けるか、メジャーであるかなど。
- 道の易しさ…アスファルトが多いか、高齢で体力の強くない方も歩いているか、トイレや自動販売機など整備されているかなど。
- 交通 …電車・バス等の本数とその料金、自家用車の場合の駐車場情報など。
- 世界遺産 …登録個所の多さ、道だけでなく王子社や神社等も含む。
- 自然 …自然景観
ルート | 初心者向け | 道の易しさ | 交通 | 世界遺産 | 自然 |
紀伊路①大阪-和歌山 | 3 | 5 | 5 | 1 | 1 |
紀伊路②和歌山-田辺 | 3 | 4 | 4 | 1 | 2 |
中辺路①田辺-滝尻 | 3 | 4 | 3 | 2 | 2 |
中辺路②滝尻-本宮・赤木・大日 | 5 | 3 | 2 | 5 | 3 |
中辺路③大雲・小雲取越 | 2 | 2 | 2 | 5 | 5 |
大辺路 | 1 | 2 | 2 | 2 | 2 |
小辺路 | 1 | 2 | 2 | 5 | 5 |
伊勢路 | 5 | 3 | 3 | 4 | 3 |
大峯奥駆道 | 1 | 1 | 1 | 5 | 5 |
高野参詣道 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 |
各ルートの総評と概略
紀伊路① 大阪~和歌山
大阪城のある天満橋からあべのハルカス、堺や岸和田、泉佐野を南下する道。関空が近いためホテルやゲストハウスも多く実は踏破向き。まち歩きという感じだがこの道沿いは大阪でも最古の歴史を誇る。かつて大阪は海の中にあったが天満橋から南側に上町台地と呼ばれる地形が存在し、熊野古道もこの線上にある。王子跡はわずかだが貴族の歩いた確かなルート。熊野街道と呼ばれ世界遺産登録はなし。府発行の街道MAPは更新されておらず在庫もなくダウンロードのみだが、山ではなく街中なので安全である。分割踏破でもアクセスは最高。健康ウォークとして1年中歩けるのも強み。仁徳天皇の古墳が新規登録されるかも?
紀伊路② 和歌山~紀伊田辺
道そのものは世界遺産でないが史跡が多く歴史深い。大阪よりも田舎になり住宅地、高速道路そばも歩く。わかやま電鉄や紀州鉄道、古墳、醤油の湯浅、梅林など古道以外の見所や地方グルメも楽しめる。みかん畑、海の景観、滝も望める峠越えなどバリエーションあり。語り部の会主催の通年踏破企画が特におすすめ。王子跡や神社仏閣もあり所々で熊野古道の確かな存在を確認できる。アスファルト多く大阪同様に健康ウォークとしても活用可能。こちらも1年中歩け、大阪ほどでないがアクセスは○。
中辺路① 紀伊田辺~滝尻
口熊野と呼ばれる古道の分岐点が田辺。王道の中辺路だが、この紀伊田辺~滝尻間を歩く人は少なく中辺路の中でもっとも割愛される観光外のルート。田辺駅以外はほぼ宿泊施設が古道沿いにないため、田辺駅周辺で前泊しバスで滝尻へ行く参詣者が多い。また稲葉根までは特に交通量の多い市街地を歩くので景観はイマイチ。闘鶏神社や高山寺など一部の神社仏閣が見所。稲葉根王子の彼岸花やコスモスは近年名所となっているので秋がおすすめ。北群越え等以外はほとんど舗装道。(潮見峠ルートは市街地を一望でき2月の梅林時期もおすすめ)
中辺路② 滝尻~本宮・赤木・大日越
熊野古道の代表格。超王道。国際化も著しく世界平和さえ感じる絶対的ルート。旅館、民宿、ゲストハウス、カフェの出店も多く観光客にも人気。それでも宿泊施設は行楽シーズン不足するため早めの予約が吉。アクセスは良くない。車でなければ路線バスのみで料金は高く本数も多くない。タクシーは本宮大社に1台程度。しかし世界中から参詣者が訪れる日本の誇る道。また湧き出る温泉も魅力。ただの自然なら日本各地にあるが、自然信仰の起源であり文化の集合地。ぜひしっかり装備をし2~3日かけて歩いてほしいが、ちかつゆや大門坂など数時間の観光体験ウォークも可能。冬季は積雪、路面凍結あり。
中辺路③ 大雲・小雲取越
本宮と那智をつなぐ中辺路の中では最も険しいコース。ここを歩けるかが健脚の分かれ目。眺望はあまりないが百間ぐらはフォトスポット。登山をやらない人には長くきつい道のためガイド付きがおすすめ。那智大社の周辺以外はアクセスが良くなく、大雲・小雲の間にある小口にも宿泊施設はわずか。よく計画し予約は早めに。また給水、救出ポイントも限られる。真夏の熱中症は命とり、そして滑りやすい石畳での転倒も多いため、中辺路の中では安全面には特に注意が必要なルート。冬季は積雪、路面凍結あり。
大辺路
2016年世界遺産追加登録。生活の道でもあり、上皇・法皇ルートの中辺路よりも後の近世の道として使われた。文人墨客や時間のある民衆が歩いたとされる。道路に吸収され、古道らしい場所はわずかで不明瞭な場所あり。整備・発展もこれからの道。周辺人口も少なくアクセス、情報が少ない。ガイドなしの初心者個人ウォークにはおすすめできない。ここを歩くのは他の熊野古道の踏破者であることが多く、何かしらの達人の道ともいえる。しかし海の幸や熊野灘、ジオパークの世界など、他の古道とは異なる個性的な魅力がある。
小辺路
高野山~奈良~本宮へ約70㎞の道。奈良県の山域こそ熊野信仰のはじまりの地。その大自然を垣間見ることができる。古道歩きというよりは本格登山なので、健脚でないと難しくアクセスも容易でないため分割も難しい。途中の宿泊施設も限られる。しかし参詣者だけでなく登山者に人気のハイキングコースでもあるため、コースは明瞭で情報収集はそう難しくはない。そして高野山は熊野三山と違ってまた圧倒的な魅力があり、これが世界遺産として高ポイント。1,000m級の山のため冬季積雪は当然あり。人気は秋だがハイシーズンの高野山は観光客多すぎるので平日がおすすめ。熊の目撃あり注意。
伊勢路
伊勢神宮から新宮の速玉へ向かう約170㎞の三重県内の道。伊勢&熊野のWカリスマなので古来より参詣者は多いが、庶民の道でもあり物流など街道としての役割も強かった。そのため荷車も通れる道幅の石畳には轍の跡なども残る。神宮の歴史、日本神話、食文化など、和歌山側とまた違った文化形成がある。JR沿いであるため中辺路よりはアクセスがいいと言えるが地方であるため本数はそう多くない。小さな峠の連続で、情報が多く初心者にやさしい。降雪もほぼなく1年中歩けるのが○。
大峯奥駈道
奈良の吉野から本宮までの80㎞の修験道。白装束で法螺貝を吹いたり滝に打たれたりするあの山伏の道。現在でも修験に使われており原始的な自然が広がる。ここが熊野信仰の起源聖地。熊野古道の中で最も難易度が高く、アクセスがどうとかいうレベルではない。日本で唯一、女人禁制の場所も残る。踏破する場合、宿泊は山小屋やテントなどの野営のみとなり食糧水分も担いで歩くためかなり険しい。各宿坊などが主催する修験体験で日帰りの企画がある。
高野参詣道(高野七口)
もう1つの霊場、高野山へ行く山麓からの道。高野七口とも呼ばれ、“参詣道”として町石道と黒河道の2本が世界遺産になっている。最もメジャーな町石道は健脚向きだが情報が多く歩きやすい。黒河道はさらに険しくトイレほぼなし。そしてこの2本以外がマイナーで道は不明瞭で情報はわずか。道標ほぼなし、誰にも会わない上に圏外。全部やろうと思うとアクセスは最悪。しかし一日、二日で理解するには奥深すぎるのが世界遺産の高野山。この地を何度も訪れるというのは大変面白く、不人気ルートに挑むやりがいあり。冬季積雪あり。
↓さらに詳しい各ルートの解説は以下のリンクでご用意してございます。
補足という名のイイワケ
いやいやそうじゃないやろ~、ここはこうやで~という声も聞こえてきそうですね。グラフで見ると大辺道の面積が小っさくてゴメンて感じです。白浜町民のくせに。でも大辺路はこれから整備されて変わっていく道です。
そして他ももちろん、難易度は季節や天候で変わり、迂回路ができたり整備が進んだり…歩きやすさも変わっていきます。
和歌山在住の私も、伊勢路は伊勢神宮と松本峠、馬越峠しかまだ歩けていません。ベースとなる中辺路・紀伊路を歩いて、高野七口のマニアックルートに単独挑戦し泣かされております(涙)が知識も経験もまだまだなのです。
でも全踏破者でないと紹介できないなら、ほとんどの人は広報もできないでしょう。観光課の公務員なら人事異動だってありますしね。
そんなわけで、以上は当然ですが個人の主観です。違うやろここは「4」や!と思う方はぜひ同じように作ってくださいね。